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気遣うことで自己を鍛えるということについて

 萬屋 錦之介氏の俳優としての姿は、生涯において『宮本武蔵』をやった時の映画が良かったですね。その余の彼の映画を沢山見たわけではないのですが、彼その人が充実していたような気がしています。同じ役を「北大路 欣也」氏もやりましたが、矢張り円熟というか味がありました。味という点では、萬屋氏の実弟の中村加津雄氏も良いものがありますね。

 更に、知らなかったことで最近仕入れた萬屋氏の名言ですが、彼が「人に気を遣うことは、自分の感性を磨くことだ」という言葉を残していたことには、感銘を受けました。研修講師や諸先輩方も、取引先や利害関係人には『気を遣えよ』、とは口を酸っぱくして言っていました。しかし、実際には自分の能力以上の細やかな気配りや心配りはできていないことが分かりました。その点、萬屋錦之介氏の大胆でいて、且つ細やかな気配りができる人だったということには感服します。

 そして、人の主観と同様裏表があって、大勢が視ている前では良い子になっていますが、裏に回れば真逆のことをしていることに平然としているやからを見ています。これでは、何の経験も修行もしていないのと同じで、二面性とか信用できないとかが云われるでしょう。これによって分かることは、自己を鍛えるのに小難しい本や偉そうな名言(めいげん)隻句(せっく)などは要らないということですね。人の挙措(きょそ)や言葉を用心深く見聞きしていますと、自身の修養になります。